パワーネット生地を扱ったこと

パワーネットの生地はどう扱う?

教科書みたいな明確な答えはないが、

パワーネット生地を使って婦人服を作った経験から得た知恵を書こうと思う。

素材はナイロン製であるからめっぽう熱には弱い。

スチームアイロンで縮みの多いものなら3〜4%は縮んでしまう。

用途がスポーツウエアとかインナーとして利用するのであれば、小さめにできて着用でフィットさせて着るという計算でできているものだが、婦人服の既製品として取り扱いになるケースだと、縮んだままではちょっと都合が良くない。特に丈縮みがあると裏地との兼ね合いがよろしくない。

量産体制で作る場合、寸法出しは命。なので、生地自体が加工中に縮んでしまう前に、ある程度縮む原因になる事を予め処理してから作り始めるのが得策だ。

まずは、

放反してあげる。放反とはストレッチの効いた生地なので少しでもテンションがかかっている状態で裁断すると時間の経過で繊維自体が元の状態に戻ろうとする。なのでテンションを緩和させてあげるのは必須なのだ。

ナイロンの繊維であるため加工中と仕上げのとき最低限のアイロンはかけることになるなので熱にめっぽう弱いので縮む、縦横2%は縮む。おおよその数値だが。

染色の状況とかで伸縮率が異なる。中間色(ベージュ系など)は、黒やネイビーのような濃色に比べて沢山縮む。なので、同じアイテムで色別の展開で作ろうと考えているのなら、色別に伸縮のデータをとってみることをお勧めする。

しかし、この素材を使った服つくりで一番驚いたことがある。

工場などの大量生産の際は、できるだけ仕上げアイロンや製造工程のアイロンなどで作業に支障、効率をできるだけ少なくするために放反以外にもスポンジング加工ということもしてしまう。これは、専用機械があるのだけれど、簡単にいうと生地の状態のときに沢山の蒸気をかけてすぐにバキュームで熱をとる。という工程で生地を縮めてしまうのである。アイロンで縮む前にもうこれ以上は縮まない状態にしてしまうのだ。

アイロン収縮のない状態で作って寸法的にも問題なしの仕上がり、ハンガーにかけ一昼夜たった翌日にびっくり、丈が伸びているじゃないですか。。。

なぜ気が付いたかというと、裏地表生地として使っているパワーネットには設計上で丈に差をつけているんです。2cmとかです。裏地が表生地から出てこないように。

で、その差寸に違和感があったんで計ったところ4cmの差に。。。

いろんな原因を考え、実験などもしてみたところ。そのパワーネット、スポンジング加工で縮ませた分が一昼夜で元の長さに戻っていたのでした。

おそらく吊るされていたことが原因ですね。

それからというもの、アイロンテスト以外に一昼夜吊るしておくテストも実行することになったのだけど。

これ、裏地をつける既製服で裏地との兼ね合いがあるからここまでシビアになるんだけど。

裏地をつける必要のないものであればここまでしなくても良いと思うけどね。


【2026年・現在の視点から追記】あの1ミリの違和感から、現在のコスチュームづくりが始まった

この記事を書いた2019年当時、パワーネットという気まぐれな生地と格闘し、一昼夜の伸び縮みに一喜一憂していた記憶は、今でも鮮明に覚えています。

「ハンガーに吊るしたら丈が2cm戻っていた」というあの時の驚きと、それを徹底的にデータ化して攻略した経験。これこそが、のちに私が北海道のフィギュアスケートコミュニティで多くの競技用コスチュームを手掛け、激しい氷上の動きに耐えうる「錯視とシルエットの技術」を確立する最大のブレイクスルーとなりました。

リンクの上で一瞬の美を競う子どもたちやコンペティターの衣装は、コンマ数秒の動きで形が崩れてはなりません。生地のテンションを計算し尽くし、1ミリの妥協も許さないこの「素材との対話」の精神は、現在アトリエ「Lust」で仕立てているすべての衣服、そして一点物のウェアラブルアート(纏う芸術)の骨組みとして脈々と生き続けています。

2019年に蒔いた技術の種は、いま、誰にも真似できない「極上のフィット感と美しいシルエット」という花を咲かせています。

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