
夏の陽射しがじりじりと工房の窓を焼いていた。扇風機の風が生地の端を揺らす中、洋はスマホに目を落とす。公式LINEに、ひとつの通知。「友だち追加」の文字が、静かに画面に浮かんでいた。
最近は、伸び悩みの時期だった。小さなコミュニティの中で、試行錯誤を重ねる日々。「どうしたものか…」と、独り言が漏れることも増えていた。
そんなときだった。新しく追加されたその人から、メッセージが届いた。
「CMで使う衣装の相談をしたくて」
心が跳ねた。画面の向こうに、まだ見ぬ物語が広がっている気がした。いつかは全国、世界から衣装制作の相談が来るような会社に――そんな夢を描いては、現実の足元に立ちすくむ日々。若き日に都会へ出ておけばよかった、なんて思うこともあった。
10年前、アパレル業の未来に絶望して、ミシンから離れたこともある。でも、衣装という“服の新たな可能性”に魅せられ、再び針を持った。地元のスタイリストからの依頼。正直、現場経験もない自分で良ければ…という不安もあった。
カフェでの打ち合わせ。生地サンプルを積んで、話すこと1時間。某有名商品のCMに登場する少女の衣装だと知った瞬間、胸が熱くなった。フィギュアスケート衣装の経験が活きる。色へのこだわりも強く、完成した映像を見て「なるほど」と唸った。商品と少女のキャラクター、その色味の関係は、まさに絶妙だった。
制作後すぐに、スタイリストさんへ衣装の写メを送った。裾の切り替えに使ったレース生地が、透け感のある繊細な仕上がりだった。だが返答には「背景合成に不都合が出るかも」との指摘。なるほど、映像の現場には、服だけでは見えない事情がある。急ぎ、白い生地でフリルを作り直した。
現場って、どこにでも工夫がある。知らなければ気づけないことが、たくさんある。その一つひとつが、僕の学びになった。
撮影スタジオにも立ち会わせてもらえた。光と音と動きの中で、自分の作った衣装が生きていた。CM公開と同時にブログにも書いて良いと許可をいただき、感謝の気持ちでいっぱいだった。
タイトなスケジュールの中での制作。でも、朝起きて作業部屋に入り、布に囲まれる日々は、何よりも嬉しかった。
この経験と、この感覚。この感動を、僕は忘れない。
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