電波塔

電波塔

「僕の記憶の旅 – 初めての電波塔」

初めて電波塔を目にしたのは、何とも言えない時間帯だった。
午前4時くらいだったかな?いや、もっと遅かったのかもしれない。時計の針が示す時間ではなく、あの時の空気感や風の冷たさだけが、やけに鮮明に残っている。薄い青の空が夜の名残を引きずりながら、少しずつ朝へと変わっていくあの時間帯――それが「未知」と呼べる瞬間だった。

転校先での初めての友達との約束が僕をその時間に連れ出した。サッカーの朝練に誘われ、彼は「朝、君の家まで迎えに行くよ」と言った。転校生としてまだ馴染みきれていない僕にとって、その約束はまるで人生の小さな救いのようだった。だから、その朝を迎えるまで、眠れない夜を過ごした。

目覚まし時計の音よりも早く起きて、ジャージを着て、玄関を出ると、ひんやりとした空気が肺に入ってきて、それだけで身体中が目を覚ますようだった。そして、待ち合わせの時間が近づくたびに、なぜか鼓動が速くなるのを感じた。

彼を待つその間に、僕は道端に立ち、ふと視線を上げた。そこに、異様とも言える大きさの電波塔がそびえていた。まだほの暗い空の中に、それだけが浮き上がって見えた。無機質な金属の塊が、どこか威圧的で、だけど不思議と心に残る存在感を放っていた。「こんなものが、僕の新しい街にはあるのか」――そんな思いが頭をよぎった。

あの待ち時間、空の色が少しずつ明るさを増していくのをぼんやり眺めていた。夜の青が朝の薄いピンクに溶けていくような、不思議な色合い。鳥の声が聞こえ、遠くから新聞屋のカブが走る音がした。
これから始まる一日に僕はまだ慣れていなくて、まるでこの新しい生活が自分に馴染むのかどうか確かめるように、その風景を眺めていた。

友達は結局、待ち合わせの時間を少し過ぎてやってきた。彼の明るい声に呼びかけられ、少し緊張していた気持ちがふっと軽くなったのを覚えている。彼と歩きながら、その電波塔の話をしたっけ。「あれ、なんか怖くない?」と僕が言うと、「慣れるよ。いつも見てるから」と彼は笑った。その一言がなぜか安心感をくれた。

あの朝を境に、僕の転校生活は少しずつ始まった。あの電波塔も、街の風景も、友達と過ごした時間も、やがて「慣れ」という名の記憶に溶けていった。でも、いまだに鮮明なのは、あの待っていた時間、あの空の色。そして、人生で初めて「知らない土地」を自分の居場所に変えようとした瞬間の心のざわめきだ。

未知の時間帯の中で見たあの電波塔は、いつも僕の中で、何か新しいものが始まる前触れのように蘇る。

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